映画祭について:喜多見と狛江の映画祭+α

喜多見と狛江の小さな小さな映画祭+αについて

なんだか「知らない」「わからない」ことが増えた。

これは逆にわたしたちが目にする情報が増えて来たから? 
なんにせよまずは「知る」ことからはじめたい。
「今の日本を考える」小さな小さな映画祭です。

仕事を休んでも見に行かなければ

(第二回映画祭に向けて頂いたコメント)

一回こっきりだと思っていた《喜多見と狛江の小さな映画祭》が好評で、第二回をやるという。選ばれた作品を見て驚いた。第一回も驚いたが、第二回はさらにすごいことになっている。

映画・演劇などのメディアは、「誰が」「何を」「いかに」伝えるかという三つの側面を持っている。普通、記録映画は「何を」伝えるかが重視され、ものによってはせいぜい「いかに」を問題にする程度だ。「誰が」に至っては、目立たない方がいいとさえいわれた。

ところが、第二回のプログラムを見ると、この原則が音を立てて崩れているのを感じる。

この作品群は「何を」とらえているのか?〈時代〉をである。「いかに」……おそらくは〈下〉から――〈民衆の視座〉から。そして、だからこそ、「誰が」が見えてくる。その「誰が」――作り手の存在そのものが「時代」であるという、そのようなすごいことになっているのが、第二回の《喜多見と狛江の小さな映画祭》なのだ。

これは、仕事を休んでも見に行かなければなるまい。

ふじたあさや(劇作家・演出家)



映画祭の始まり

喜多見と狛江の映画祭+αが開催される会場の最寄駅は、小田急線の喜多見、世田谷区のはずれの駅です。そこから5分歩けば会場のM.A.Pです。住所は狛江市。日本で2番目に小さな市です。東京とは思えない、畑いっぱいの静かな街です。
もともとは地図の制作会社でした。でもグーグルマップの出現で、めっきり仕事が減りました。そして3.11。愛着あるこの街の、この事務所のこのスペースを利用して、ご近所の人たちみんなと楽しみながら、でも未来を考えるためにも、何かやりたいと思いたちました。そうして三線教室や琉球舞踊教室を開き、時々真剣に世の中を考えるような単発の上映会を始めたのです。
そのうちに仲間が少しづつ増えてきて、2013年、とうとう初めて映画祭をやることになりました。もともと俳優だった社長と、琉球舞踊の先生の社員、そんな二人だけが残ったM.A.P.という会社、その人脈で、たくさんの映画やアーティストが集まりました。

喜多見と狛江の小さな映画祭+αのテーマ

第一回は、こんなテーマでした。
「知らないわからないことがいっぱい、まずは知ることからはじめたい」
そして、延べ500人のお客さまがやってきて、こんな映画祭はじめてだ!と喜んでくださいました。
この小さな場所に、考える種を、それも楽しみながら考えるという種を植えることができたような気がしました。いろいろ苦しいことはいっぱいあるけれど、喜多見と狛江のためにも、毎年続けていかなければならないと思ったのです。
今年のテーマは欲張って、
「知らないわからないことがいっぱい、まずは知ることからはじめたい
いろんな人が集まって、笑ったり、泣いたり、考えたり、そんな小さな小さな映画祭です」
としました。

ふたつのプラスアルファ

知りたいことがいっぱいあるから、主にドキュメンタリー映画のお祭りにしました。でも楽しみたいから、プログラムには映画以外のものもたくさん。去年は短編芝居や腹話術、斉藤哲夫さんのライブなどを企画しました。今年も、リーディングの公演や、元五つの赤い風船の長野たかしさんのライブや人形劇などをラインナップしました。また、ちんどん屋さんを呼ぶのも、映画の範囲を超えたプラスアルファと、地域の人たちにもっとたくさん来てもらいたいという発想から生まれたものです。

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「腹話術師しろたにまもるとゴローちゃんのショー」


もうひとつ。ただ映画を観て帰るだけでなく、上映する映画に関係した歌や踊りなど、それだけでも見ごたえのあるイベントを、プラスアルファとして上映後に付け加えれば、もっと楽しめるに違いない、そんなプログラム作りを目指しています。

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会場の入り口です

異質なものの出会う場所

プラスアルファは、ただ盛りだくさんというだけではありません。それは異質なものが出会うということだと気づきました。
映画だけでは行かなかったけれど、琉球舞踊やヒップホップやハワイアンやアイヌの踊りのライブがあるから見に来た、それが、沖縄やパレスチナなどのことを知るきっかけになってくれればいい。演劇的な催しを加えることによって、演劇ファンと映画ファンが結びつきます。

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「短編舞台の1シーン」


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「三線・琉球舞踊体験コーナー」


演劇用の会場設営中の動画



地域を盛り上げる、地域の人が来る

小さな町で映画祭をやるのは大変ですが、普段なかなか映画を観る機会のない方が、こんな近くでやるのならと気軽に見に来る、そんな地域に根差した映画祭のモデルを、この喜多見と狛江から生み出したいのです。
また、プログラムによってはかなり遠いところから見に来て下さる方もいます。それはそれでとっても嬉しいことです。いつもよりたくさんの人で賑わい、この街をたくさんの人に知ってもらえます。
そのようにして、この小さな町を、内から外から盛り上げたいと思っています。

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「後夜祭の夜、近所の協力店で打上げ(加藤登紀子さんを囲んで)」


さらに地域を重視する

第二回は、喜多見と狛江という地域をさらに重視し、同じ地域に住む人とつながる仕掛けをたくさん作ろうと試行錯誤しました。ハワイアンのライブを地元のハワイアン教室の方々にお願いしたり、また半券を持っていけばサービスがあるといった、街のお店との協力体制をさらに強化しました。
ご近所さんには色々なタイプの方々がいらっしゃいます。その、違う立場、違う考え方、違う意見を持った人たちがやってくる、普段ドキュメンタリー映画なんて見ないような人も、近くで何かおもしろそうなことやっているならとたくさん集まってくる、映画祭が楽しければ、この会場がきっと色々なタイプの人の交流の場になるでしょう。そんな場所を作りたいと考えています。

同じ地域に住む人が同じ地域に住むことという理由で親和的になることにこそ、考え方や主義主張を越えて繋がるひとつのモデルがある、そこに新しい可能性を見出しています。

小さな会場

30数人が限界という小さなスペースです。でもその小ささゆえ、毎回上映後はお客さまとゲストとスタッフが一緒になって語り合い、濃密な時間を共有する、つまり、普段なら出会わない、あまり話さないような人たちが出会う場所になっています。もしかすると、映画よりもアフターイベントと懇親会を楽しみに来てくださる方々もいるのではないでしょうか。

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第一回「カメジロー沖縄の青春」に主演俳優の津嘉山正種さんがトークに来てくださいました。青年座の岩倉高子さんと制作の方も一緒に挨拶してくださいました。